第52話

ーーー、




「僕と関わったのは、罪滅ぼしのつもりだったんですか?それとも、壊れたあの男の復讐?」




いろはを胸にキツく抱いて、無表情の黒瀬を鋭く睨んだ。


小さな僕の話は、聞いた大人達にとって、普通なら受け入れられるわけもない。普通じゃない伝え方で、証拠もない。


だけど、周りの人間は信じた。


少なくともアパートの人間は。



多分、黒瀬の人間が時折出入りしていたんだろう。ヤクザと関わりのある家族の腹違いの弟がやらかしたと聞いて、無条件で信じないと思える訳がない。




あの男の一家は、あのアパートを追い出された。




それから、いろはも退院してきて、僕たちはまた、いつもの公園で過ごしていたけれど、


悦郎のお兄ちゃんが会いに来ることは二度となかった。




「脆い、奴だったかんな。」


「どういうこと?」



首を傾げるいろはは、初めて聞く話に、不安の色を濃くしていた。


ズキリと、心臓が痛む。僕はこうして、いろはに隠し事ばかりをしているんだから。



ごめん、という意味で、いろはの手を力強く包んだ。



「聞いた話なんだけど、精神的にまいっちゃったって。」


同意を求める意味で、黒瀬を見れば、難しい顔で小さく頷いた。

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