第49話
side 郁
『弟なんだ。代わりに謝る。だから、許してやってほしい。』
理不尽な言葉を吐いたあの男。名前をなぜか覚えていないけど、あの時は”黒瀬”じゃなかった気がする。
そう言って涙を流すあの男の背後で煙草を吸っていたのが、黒瀬だったからだ。
悦郎のお兄ちゃんのことは知っていた。″こうなる″前、公園にいる悦郎に一度だけ会いに来たことがあったから。
その時初めて、一緒にいるのが黒瀬だと聞いた。彼らを紹介する悦郎の表情が珍しく苦々しかったから、余計に覚えていた。
いろはが入院中の公園。藤の木のベンチに座っていた僕に話し掛けてきたのは、あの日、僕に『強くなりたいか?』と聞いてきた黒瀬と、とても柔らかな表情の”お兄ちゃん”だった。
あいつは、弟のしでかした事を謝ってきた。悦郎も寂しい奴で、ドールだけを生きがいにして生きてきた、と。
友達になりたかったんだと思う。傷付けるつもりもなかったと思う。とも。
びっくりした。
あの男が上げ連ねる数々の悦郎を庇う言葉は、僕たち、いや、いろはのあの怪我をしょうがないもの、とさせるような、一方的な理由ばかりだったから。
この男が言うことは、全てが綺麗事だ。あの悦郎が善人前提で話されているただの綺麗事。
それをただ無表情で聞いている黒瀬は、男の言うことに一切口を挟むことはなかった。
『許してやってくれないかな?あいつも、反省しているから。』
もう一度言われた言葉に、僕の何かがキレた。
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