第45話

それで引いてくれた医者。顔しか覚えていないけど、いい人だったように思う。




改めていろはを見ると、とても、とても、綺麗だった。



黄色いドレスに身を包んだいろはは、その身体をところどころ、血に染めて、顔は不安に彩られている。それでも僕を求め続けるその、綺麗な瞳。



僕はこの時、確実に君に恋心を抱いた。




いや、初めて感じたいろはを求める自分の心を自覚した、と言った方が正しいのかも。




『僕は、ここにいるから。』


『うん。』



『絶対に、いなくならない。』


『ん。』



『約束だ。』


『……ん。』




ぐるりと、いろはの目が回る。普通じゃないくずおれ方をしたいろはは、ベッドに横向きに、倒れ込んだ。




手術が終わって、いろはは病室に運ばれた。その病室の前、僕は。



『っっ、ウッ、……ック、』



止めどなく、涙を流した。


ああ言ったのに。僕は、いろはに会う勇気が無かった。


守りきれなかった。いろはを、いろはだけを、傷つけて。膝に擦り傷だけを作った僕は、無事でいる。



最低な気分だったんだ。



そんな時だった。



『坊主、強くなりてえか?』



師範がそう、囁いたのは。


暗闇の中、突然姿を現した師範は、まさに悪魔のようだった。


弱った人間の耳元で囁き、地獄に誘う。師範の纏う空気も、それに近いものがあったような気がする。

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