第44話
病院に着いてが、大変だった。
『ダメ!駄目なの!』
思ったより脇腹の傷が深かったいろはは、手術室へ向かわなければいけない。それでも僕を離そうとしないいろは。
それどころか、僕を抱きしめる力を強くし、出血を酷くさせる始末だった。
ふといろはの腕の中、近くにいた看護師が視界に入った。
手元で素早く何かを用意していて、なんとなく、目が冷たく感じる。
少し、身体を動かして。泣き叫ぶいろはの肩越しに、その看護師の手先を辿った。
そこには、何かの薬品と注射器。
今思えばそれは、鎮静剤だったんだと思う。
だけど僕は、その注射でいろはが、危険な目に会うと思ったんだ。
『いろは、離して?』
僕の放った言葉に、叫んでいたいろはの声が一瞬で止む。
震えるいろはは、それでも離す事を躊躇い、僕をキツク、包む。
『離して。』
『っっ、』
少し、強く言えば、いろはは肩をビクリと震わせ、恐る恐る身体の力を抜いた。
医者や看護師が、ホッと息を吐く音が聞こえる。
だけど血だらけの僕たちの間には、静かな空気しか流れていない。
『少しだけ。』
すぐに処置に入ろうとして医者に、僕はその一言だけを言った。
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