第43話

「僕は師範に、会ったことがあります。」



確信を持って言えた。見つめる先の師範は、まだ公園へと視線を滑らせていて、夕日が落ちてしまった夕闇の中、師範が上げる紫煙が妙に映えた。



「いつも会ってんだろうが。」



それでも、認めようとはしない師範に、目を細めた。


「いえ、あの日、病院で会うより前、僕は”黒瀬”に会っている。」



どこでかは、分からない。だけど僕は確かに、黒瀬に会ったことがあった。



昔から遡って考えてみても、師範程”灰汁の強い”顔を覚えていないわけがない。


僕は記憶力が良い方で、覚えていたくない顔ですら、幼い頃に出逢った人ですら、思い出せた。


あの時、悦郎の部屋にいた黒服でさえも、だ。



だけど。師範との記憶は、あの日の病院より前にはない。



「ねぇ、病院って、あの日?」


「っっ、ん。」



僕の胸にぴったりとくっつくいろはは、青白い顔を僕に向けて上げる。




―――、



警察が来てすぐ救急車が来て、僕といろはは病院に運ばれることに。



現場で大人たちが僕を引きはがそうとするも、いろはは常人ではない力で僕を離そうとしなかった。



仕方なく、救命士たちは僕を抱きしめたままのいろはを処置しながら、病院へと移動させた。

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