第41話

あの時から僕は、強くなった気でいた。


だけどどうだろう。今の僕は、あの時の自分となんら変わりない。



無力さに打ちのめされ、あの病院で泣いていた自分と、同じだ。




「おかえり。」


「……ただいま。」



ああ、帰って来たんだと思った。


漠然と。



僕は今、いろはの腕の中にいる。そう思った瞬間、いろはの病室のドアをただ見つめていた自分は、蜃気楼のように四散した。



「だから。人の話を聞きなさい。」



きつく抱きしめあっていた僕たちの背後で、母さんの心底呆れかえったような声が聞こえた。



振り返れば、母さんが真剣な表情を僕たちへと向けている。



「”いろはの”家に行くのはダメよ。”ウチに”いろはが来なさい。」


「え?」



母さんの言葉に、いろはが困惑の声を出す。


そんないろはにか、僕にか、母さんは穏やかに微笑んだ。



「いろははうちの娘になるんでしょう?それなら、一緒に乗り越えるべきは、私たち”家族”でよ。」


「「っっ、」」



母さんの言葉に、僕といろはは、思わず顔を見合わせた。


そこでようやく見たいろはの目は真っ赤で、今にも泣きだしそうだ。

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