第40話

なぜ?とは聞かない。僕の中でこれは、決定事項だからだ。



あの暗い家に、この状態のいろはを放っておけるわけがない。


それに。



いろはを慰めないと。




また、まただ。



「っっ、」


「郁!?」



頭を抱えて、自分の内側で見上げてくる、狂気に抗う。


いろはがこんな状態になっているのに僕は、いろはを慰められることを嬉しく思っている。


なんて、薄情で、最低な思考なんだろう。



いろはが傷ついているのに僕は、それすら、いろはが僕に依存する材料として使えると、無意識に喜んでいる。



最低な人間なんだ僕は。


僕も、悦郎も、最低の人間なんだ。



「い、く?」


それなのに。



「郁、こっちに、来て?」



目を覚ましたいろはは、僕を求めてくれる。


頭を抱えていた僕は、その声に誘われ、ゆっくりと歩みを進めた。


いろはの顔が見れなくて、ベッドの前にしゃがみこむだけしかできない僕を、いろはの甘い香りが包み込んだ。



温かい、いろはの体温。


背中に手を回せば、いろはは僕の肩に顔を埋める。



震えている身体。荒い呼吸。今恐怖をピークで感じているいろはは、僕なんかに縋る。

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