第36話

side 悦郎




僕の、可愛いドール。


もうすぐだね。


怖がらなくてもいいのに、”お姉ちゃん”がいないからなのか、いろははとても、怯えていた。



僕の元から逃げたりしなければ、僕はもう”お仕置き”はしないのに。



怖かったんだね、ごめんね、いろは。



郁お姉ちゃんが大好きで、離したくないのは分かるけれど、郁もいろはも、【ボク】のドールなんだ。



例えいろはでも、郁を抱きしめることは許さない。


だから、引き離す為にいろはを恐がらせようと、ゆっくりと切り刻んだのに、いろはは頑なに、郁を手放してはくれなかった。



錆びた鉄の臭い、それ以上に強く薫る、血の臭い。



ボクのドールたちは、生きている。



あの日ボクは、沸き上がるこの感情を叫びたかった。



【歓喜】




ボクのドールが、生きているドールが手に入ったという、歓喜。


それなのにボクは、この数年、何をしていた?



ボクがボクのドールから引き離され、やってきたのは、代わりのドールすらいない、寂しい空間。



周りの奴らはドールになれる資格のない、見た目。


言動もがさつで、気色が悪い。



だからボクは、そのドールになりきれない可哀想な奴らを、”開放”してやることにした。


その、屈辱的な思いから。

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