第34話

あいつは、じわじわと僕たちを追い詰めるつもりだ。


現に、僕が修学旅行から戻る日を”狙った”



あの悦郎が、僕らの予定を調べ上げずにただ単に会いに来ただけなわけがない。



あいつは頭がおかしい奴だけどそれ以上の緻密さも持ち合わせているんだ。



大通りを通っていたからか、タクシーはすぐに捕まった。制服姿の僕は訝しげな視線を向けられたけど、目的地だけを告げてスマホに視線を落とす。



画面をタップして、伊吹に僕の荷物を野球部のロッカーで預かっておいてくれるように頼んだ。



次に母さんに電話をかける。



『はい?』


「いろはが、倒れたから、僕の部屋に運んでもらうように言っておいて。」


『え!?』



母さんの驚く声すらも煩わしいのは、僕の精神状態に余裕がないからだ。



「師範が運んでる。頼んだよ。」


『ちょっとい、』



すぐに電話を切って、倒れ込むように車のシートに背を預けた。


空は、さっきと変わりなく雨空に”見える”


弱かった僕。いろはを守れなかった僕が、そう見せているんだ。



準備をしていたはずだ。



目を閉じて自分にそう言い聞かせた。



悦郎が僕らに会いに来るのは、確信を持っていたはず。

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