第30話

「お前の愛しの姫は預かった。by師範。」


『……どういうつもりです?』



ちょっとふざけただけで、電話口から殺気が伝わってくるようだ。


とりあえずヤンキー座りをして、いろはを俺の両太腿に載せる。ん、結構重いな、いろは嬢。



でも柔らけえからオーケーだと親指を立てた後、紫煙を一気に吸い込んだ。


あー……うめぇ。



「悦郎が”出所”したんだ。」


『っっ、』



正確に言えば、出所はかなり前だ。そのあと入れられた施設のことを考えれば、出所と言ってもおかしくないけどな。


息を呑む郁が黙り込んだ間に、もう一本吸えるだろうかと考える。


しかし、道行くおばちゃんが、俺といろはの状態を見てなんとも言えない顔をした。



これ、通報だな。確実だ。


おばちゃんが握りしめている2つ折りの携帯を見て確信した俺は、とんずらすることにした。



「おいしょ。」


とりあえずいろはを抱き上げ、煙草を踏み消した。


そしてスマホを拾い、いろはの腹に載せる。



「とりあえず、お前の家に運ぶ。」


『……気を失いましたか?』



いやに落ち着いたその言い方に、違和感を覚えた。



「ああ。悦郎は焔に送らせたから、学校にはいねえと思うが……急げよ。」


『分かりました。』



すぐぶち切られた通話。郁の冷静なもの言いに更に、違和感が深まった。

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