第29話

柊羽はいっちょ前にさっきのケバ子にハマっていたらしく、修学旅行をサボっていた。


同じ学年のあのケバ子もしかりだ。


さっきの電話で、蓮池は?なんて天然な質問をしていたあの馬鹿は、すっかり忘れてやがったみたいだが。


しかし柊羽が行っていなかったお陰で、焔を使えた。


今頃悦郎は焔の手によって拘束され、”保護者”の元へと送られているだろう。



俺の手間が省けた。



「っっ、郁?」



喘ぐいろはは、苦しそうに郁の名前を呼ぶ。電話の相手が何を言っているのかは分からねえが、こんな道ばたで暢気に電話してる場合じゃねえんだけどな。



苦笑いの俺はとりあえず、煙草に火を点けて傍観を決め込むことにした。



「今すぐ、帰ってきて。」


結構滅茶苦茶だな、いろは嬢は。


「学校にっ、行っちゃ駄目っ、」


「おっと。」



振り絞るようにそれだけを言ったいろはは、グルンと白目を剥いて倒れ込んだ。


なんとかキャッチしたが、スマホは結構な音をたてて地面へ落ちる。



とりあえずいろはを抱いてそれを見てみれば、まだ通話中。


スピーカーのアイコンを、タップした。



『ろは!いろは!!』


「よう、郁。」


『……誰だ。』



師範に誰だとはなんだこの小僧。


あとでこっそりいろはのパンツを見てやろうと決めた。

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