ドール
第28話
side 黒瀬
歩みを進める度に、いろはの顔色は悪くなっていく一方だった。
時折、俺の身体にしなだれかかるように意識を失いそうになっても、いろはは自分を叱咤するように脂汗を浮かべながら歩き続ける。
時折、脇腹の辺りをさする。
その場所は悦郎が、いろはに”お仕置き”をした場所なのだと知っていた。
あの時の俺たちは、まだ若かった。それで片付けられてしまえばいいんだろうが。
眉間に皺が寄る。久しぶりに見た悦郎は、あの時と全然変わってない。
気色わりいのも薄気味悪さもあの時のままだった。
それが、不気味で仕方が無い。
あの事件は9年ほど前のことだ。その時高校生だった悦郎は、今は皺一つ増えていないように見える。
まるで、あの事件の日からタイムスリップしてきたみたいに、悦郎はあの時の笑顔のまま、いろはを見ていた。
ふと、いろはが歩みを止めた。電信柱に寄りかかるようにしているいろはの前に回り込み、のぞき込めばいろはは制服のポケットからスマホを取り出していた。
ぎこちなく指を動かし、タップする。
そして苦しそうに耳元に当てたその電話の先は、明らかにあいつだろう。
こんな時に暢気に修学旅行なんか行ってやがるあいつだ。
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