第27話
気が付けば私は、郁の手を引いて部屋を飛び出していた。
走りながら振り返った先には、自分で抜いたナイフを見て笑う悦郎。
『ん、はぁっ、』
『はっ、はっ、はぁっ、』
必死に、走って、走って。だけど雨の中、私たちはどこへ向かえばいいのか。混乱する頭は、家に帰ることすら浮かばない。
ただひたすら走る、走る。前に、まっすぐに。
『いたぞ!』
そんな叫び声が、どこか遠い場所から聞こえてきた。
それに肩を揺らした私は、目の前の工事現場に足を踏み入れた。
なんの工事中なのかは分からないけど、広い場所、資材がきちんと置かれた場所に、身を隠す。
雨足は強まるばかりで、視界はどんどん悪くなる。
鉄と土の匂いを感じながら、私はただ、郁を抱きしめた。
震える郁は、私を抱きしめ返してガタガタと震えている。
ザ―――……、
雨足が強まる。私たちはそんなこと、気にならない程濡れてしまっているけど。
ザリッ、ザッ、ザッ、
『ダメ。ダメなの。ダメ。』
やっと見つけた、私の光。
胸の中のこの子を失ったら、私は。
『私のなのっ。ダメ!』
希望を、失ってしまう。
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