第22話

その日の悦郎は、ドールを抱いていなかった。


必ず、一緒にいたドールと悦郎なのに。目の前にいるのは、人形を抱いていない、男子高校生。いや、それが当たり前なんだけど……



悦郎とドールは、一心同体。そんなイメージだったから。



『えっちゃん、ドールは?』


『ん?……うん。』



寂しそうに笑った悦郎。いつも抱いている、左腕の辺りが寂しそうだった。



悦郎は、ドールに名前を付けてない。



名前があるとすれば、ドール。いや、それは、呼び名だった。



『ボクの家に。会いに行ってやって欲しいんだ。』



寂しそうにそう言った悦郎。それに素直に従ったのは、私たちの中での悦郎の位置付けがとても、いい位置にいたからに他ならないと思う。



両親に捨てられた、私。私以外を信じない郁。2人が小さかったとはいえ、この時悦郎に素直について行ったのは、理由がある。




悦郎もきっと、私たちと同じ。



そんな確信をもっていたから。



悦郎はきっと、人を愛せない。



自分の信じる相手だけしか、愛せない。


だけどその、信じる相手がいない。



そんな、人間。私には郁が、郁には私がいるから。”可哀想”な悦郎に、付き合うことにしたんだ。




付いてくる私たちを後ろに見て、悦郎が浮かべていた笑顔がこの時目に入っていれば、少しは違っただろうか。

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