第16話

黒瀬の雰囲気に圧されたのか、真顔になった悦郎が立ち尽くす。



それから興味を失ったように視線を外した黒瀬は、その頬を緩め……



「お、いろはの友達か?アイス奢れよ。行くぞ。」



そう言って、田中姉妹ともう一人に声をかけた。



「あ、え、と……。」


「金、ねえし?」


「……。」



存在忘れてたけど、この場の展開にドン引きしているらしい奴ら。頬を引くつかせながらどうにか断ろうとしている様子。



それに、いろはが寂しそうな笑みを吐いたのを見逃さなかった。



「みんな、また、明日。」



そう言ったいろはの寂しそうな声音に、私の眉間に皺が寄る。



「え、いろは?」



田中の姉がそう言ったのに笑顔だけを返したいろはは、黒瀬の手を引いて背を向ける。


そこに。



「長谷川!!」


田中妹が叫んだ。なんで名字?



振り返らないいろはに、田中妹は笑顔を向ける。



「その人怪しいから、何かあったら言って。」


「おい、怪しいってなんだ怪しいって。」



つっこむ黒瀬を無視して、田中妹はまっすぐな目をいろはに向ける。



それに、恐る恐る、振り返ったいろはは、田中妹ともう一人の女と目で会話をして、途端に笑顔になった。

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