第14話

「いろは、やらなくていいことをやろうとしてるお前を止めた俺はだな、お節介というより神、うんそれだ。」


「……この間のお祭り、その神様は後片付け逃げましたよね?」


「神にはな、大事な用の為には時に、背を向けなきゃなんねえこともあるんだよ。」



恋人同士のように抱きしめあいながらそう会話をするこの、いろはと”師範”


いろはが、郁以外にこんなにも心を許している人間がいるなんて、意外。



「誰。」


「お前こそ誰だケバ子。」



質問してるのは私なのに、なにこいつ。私のこの美しい顔をケバ子だと?


いろはをしっかりと抱きしめたままタバコに火を点けようとする”師範”に、胸の中のいろはがもがく。


「師範、そろそろ離れてください。」


「あ?」



紫煙を吐き出しながら目を細めた”師範”は、タバコを咥えたまま、ニヤリと口角を上げる。



「女子高生を抱きしめるのは久しぶりだからな。まだ堪能させとけ。」


「はぁ、」



そう言って離そうとしない彼に、いろはが呆れのため息を吐く。


ふざけてるけど、彼がいろはを離さないことはいろは自身も分かっているようだった。


あの男に触れさせない、と雄弁に語る目が、笑っていないから。

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