第13話

「ああ。殺さないと。」



悦郎と柊羽の緩いやりとりを見ていると、胸の中のいろはがふわりと言った。



視線を下げれば、いろはは答えがやっと分かったとばかりに満足そうに笑っている。



「殺さないと。郁を取られる。」


「っっ、」


そう言ったいろはは、普通じゃない力で、私の腕の拘束を解いた。というより、振り払われた、感じ。



目を見開いた私に笑顔を向けたいろはは、踵を返して、走り出す。


その先には、悦郎。



「おいで。僕のドール。」


悦郎はそう言って両手を広げている。


見た目だけなら、恋人を待つ好青年の胸に、いろはが飛び込もうとしている。そんな感じ。


だけど全然違う、この場の冷たく鋭利な雰囲気が、私の身体に動くことを禁止させた。


だけど……



「カスが。」



その声が合図かのように、悦郎は柊羽に横から蹴りを入れられ、勢いよく吹っ飛んだ。



「役得だなおい。面倒くさがらないといいことがあるっつうだろ?」



甘い声を出した主は、いろはをその胸に納め、後頭部を優しく撫でていた。



「師範、邪魔しないで。」



ふて腐れたようにそう言ったいろはは、先ほどからなにも変わってない。


普通の感じなんだけどゾッとするなにかを背負っていた。

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