第8話

「あーあ、いーくーに言ってやろっ!」


「柚希……今はそれどころじゃねえ。」



暴れる長谷川を強く背後から抱きしめる阿部柊羽をからかう井上柚希は、その目を一転、鋭く尖らせて男を見た。



刺すようなその視線の先には、うっとりと彼方を見つめる男。


その目は潤んでいて、頬を紅潮させている姿は何か、気持ちの悪いものを感じさせた。



「郁、大きくなってるかなぁ、今日帰ってくるんだろ?良かった。2人がまだ一緒にいて。だって……」



次いだ言葉は、ゾッとするほどの色香が漂っていた。



「ドールは2体揃わないと、だろ?」




意味が、分からなかった。だけど、その言葉に阿部柊羽と長谷川が顔をくしゃりと歪ませた。



「ドール?」


不思議そうに首を傾げた井上柚希。それに満面の笑みで頷いた男は、嬉しそうに口を開いた。



「僕はね、ドール遊びが大好きなんだ。なのに、あの時はこの、」



そう言って彼は、冷たい目で阿部柊羽を指さす。



「この金髪のお兄ちゃんが邪魔をしてね?僕のドールは魔法の力で生きているから、逃げちゃったんだ。」



勿論、お仕置きはしたけどね。そう次いだ言葉に、長谷川の肩が大袈裟な程に跳ねた。

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