第57話

「痛いわ。」



顔を顰めた夏流の背中に腕を回して、体制を反転させる。



組み敷いた夏流の胸がその反動で揺れたのに少し目が行ったが、楽しみは取っておくタイプだ。



見下げた夏流は瞳を揺らしていて、未だに取り除かれていない不安はまだ夏流の表情に影を落としていた。



そんな夏流の額にそっとキスをする。



「お前さ、"俺が居る意味"分かってる?」



俺の低い声に、夏流は心外だとばかりに眉間に皺を寄せる。



「分かってるわ?」


「分かってねえだろ!!」



反論する夏流に被せる様に放たれた俺の言葉は、激しく怒りを孕んでいる。


肩を揺らし、目を見開いた夏流は戸惑いに瞳を揺らす。



そんな彼女を見る俺の顔は、険しさで歪んでいる。




「お前がな、いつも努力してるのは知ってんだ。」


吐き出した俺の声は思ったよりも苦しさに掠れていて、夏流は動揺しながらも慰めようと俺の額を撫でる。


そんな夏流を抱き起こし2人で向かい合うと、シーツで周りを包んで先を続けた。



「"新城の姫"なんて呼ばれて、あの2人の子供ってだけで周りに多くを期待されてきただろ?」


「・・・そうね。」


少し瞳を伏せた夏流の顎に手を添え、視線を戻させた。



今俺の目の前で苦笑する夏流の努力を知っている。



「御両親が馬鹿にされない様に、毎日しっかり勉強してんのも知ってるし、母親が一般人だって馬鹿にされねえ様に組のしきたりも必死で学んできただろ?」


「・・・。」



すげえ親を持つと、子は苦労する。



俺みたいに糞な親よりはマシかもしんねえけど。

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