第52話

side 朔真



後悔していた。



夏流の傷だらけの全身を見て。



シャワーを頭から浴びて、頭を冷やそうと思った。



自分の嫉妬のまま、彼女に付けた"傷"



夏流の愛は深くて、残忍だ。



だけどもしかして俺の方が、残酷な愛し方しか出来ないんじゃないか?



俺は愛されずに育った。



だから俺は、"愛し方の正解"を知らない。



虐待をされた子は、自分の子に虐待をすると聞くけど、俺は、それなんじゃないか?



愛し方を知らないから俺は、夏流を知らずに傷つけてるんじゃないか?



自分の疑問を振り払う様にシャワーを止めた瞬間、耳に飛び込んできた悲鳴。





夏流の、叫び声。





「っっ、」



シャワールームを飛び出し、目に飛び込んだのは、髪を振り乱して頭を抱える夏流で。



ベッドの上に蹲り、ただ泣き叫んでいた。



「夏流!?」



彼女に走り寄って肩に触れれば、彼女の体は大きく跳ねる。


「夏流、どうした?」



なるべく優しく問いかければ、ゆっくりと彼女の顔が上がる。



「な、つ?」



いつも前を向いていた漆黒の眼は濁り、表情は絶望に支配されていて……、


俺を"見ていない"彼女は弱々しく言葉を吐き出す。


「朔真…、は、どこ?」



「ッッ、」



俺を探す彼女の瞳には、涙が溢れ、



「お願い、木下さんっ、朔真をっ、返して!!」



叫ぶ彼女は大粒の涙を流した。



俺を木下と呼び縋り付く夏流は、何度も懇願する。




"朔真を、返して"と。




ニヤリと、口角が上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る