第49話

朔真の尋常ではない怒りに、毛穴がゾワリと逆立つ。



本気で殺り合うのを覚悟した時、夏流の色を含んだ声が朔真の背後から届いた。



「朔真?教習、終わったの?」



この場にそぐわない言葉を吐き出す夏流は、殺気を俺に放つ朔真の背中を見て歓喜に染まっている。



そんな夏流を見て……、やはり俺の気持ちはまだまだなのだと痛感する。



俺ではこんな表情、させられねえ。



俺の表情が苦痛に染まった時、怒りはそのままに、朔真が振り返る。



「・・・・来い。」



乱暴に夏流の腕を掴んだ朔真は、一度も俺を振り返る事が無く。



痛そうに顔を顰める夏流を強引に引いていく。


さっき入ってきた衝撃のせいでか空いたままぎこちなく揺れていた扉をくぐって出ていってしまった背中を呆然と見つめていると、


昭子が俺の横で店の子機から電話をかけだした。



「あ、ゆいちゃん?あんたの息子、店の扉壊しちゃったんだけど!弁償よろしくねん?

あーあと安城月の坊ちゃん、手折れてる。

はいはいよろしく~。」



電話を切った昭子はギラリと俺に瞳を動かすと、デレデレに緩んだ顔で巨体を揺らしながら駆け寄ってきた。



「大丈夫ぅ?まかしてっ!私、看病得意よー?」


「・・・・・遠慮しときます。」



苦笑いをこぼした俺に、昭子がかなり残念そうだ。


確かに骨が逝っていた。


伝う激痛に汗が流れる。



「失恋。切ないわね〜。」



昭子が眉を下げるのに、俺も苦笑いを返した。



「初めから、分かっていましたから。

・・・・・・・ッッ、」



思ったより辛いもんだな。


俺の顔は自然と歪む。



昭子は何も言わずに下を向くしか無い俺の頭を男らしいその手でそっと撫でた。




「・・・・昭子さん、コーヒー、追加お願いします。支払いは"金"で。」



強調した俺に、昭子の舌打ちが落ちてきた。



「特別ブレンド煎れたげる。」


「うす。」



昭子が置いた3杯目。


手の痛みを誤魔化しながらも口に含む。


新城の迎えが来るまでと、コーヒーの苦さを噛み締めた。

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