第44話

「貴方も、とても深く、愛してくれると思う。」


「だったら……」



俺が少し体を夏流に近付けると、それを阻止するように彼女は指先を俺の襟に這わした。



「ッッ、」


ギリギリ触れない部分を、夏流の指先が這うのに、俺の瞳に欲情の火が灯る。



それを見つめた漆黒は、残念そうに揺らぎ、そしてそれに呼応するように指先もコーヒーカップの元へと戻っていった。



「貴方じゃ、゛足りない゛

私のこの枯渇を満たすのは、朔真。

こんなメンドクサい私でも、そのままでいいって嬉しそうに抱きしめてくれるのも……

メンドクサいとすら、思わないのも。

パズルのピースはね、ハマるべき所にしかハマらないものよ?」


「・・・・。」



こんな行動をする夏流を、メンドクサいと思ってしまう俺は、こいつへの想いが足りねえってことか。



「朔真も、今思ってねえって保証は無くねえ?」


俺の言葉に、夏流は首を傾げる。



「朔真が゛私のまま゛でいいって言ったのよ?こんな私くらい背負えないのに、口先だけで発言する様な男ではないわ。」



「ククッ、お前等、たいがい狂ってんな。」



思わず吹き出した俺に、夏流は何故か嬉しそうに微笑んだ。



「そうね、私、たいがい狂ってるわ。あ、昭子ちゃんお代わり。

あと、チョコレートパフェ、ね?」


「あいよー!そこのイケメンは?」


「・・・もう一杯いただきます。」



俺の発言に昭子の瞳がキラリと光る。


「あいよっ。チュー1回で2杯目もタダにしてあげるわよ~?」


「遠慮します。金はあるんで。」


「チッ、毎度あり~。」



すんげえ悔しそうな昭子は、渋々厨房へと姿を消していった。



「3杯目はもう飲まねえ。」



貞操の危機を感じた俺は、微笑む夏流にそう宣言した。

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