第42話

「さあ、な。俺はできればお前の心も体も、全部欲しい。諦め、なんて考えた事もないな。」



そう答えた俺に、笑みを崩さない夏流は、



「じゃあ、私を抱いてみる?」



衝撃的な言葉を吐いた。



「はぁ?」



流石に大きな声を出した俺に、夏流の顔から笑顔が消える。



"無"の表情に、俺は息を呑む。



「その時点で私は、朔真に愛(め)でられる体を失う。」



夏流の低い声に、俺の表情も真剣なものへと変わる。


「どういう意味だ。」



そう聞き返した俺に、夏流は目を伏せた。



「心も、体も、朔真に愛してもらえる資格を失うの。それと同時に、貴方も"私を失う"

それでもいいならやってご覧なさい。」



「っっ、」



冷静に言葉を吐いてコーヒーを啜る夏流に言葉を失っていると彼女の漆黒の目はスマホの画面を見た。



それは、止むこと無く振るえていて・・・

相手が誰であるかは想像に容易い。



俺がこいつを無理やりにでもモノにすれば、こいつは……

有り得る予想にため息しか出なかった。



「俺がそんな男に見えるか?」



若干ムッとした俺はそう吐き捨てる。



そんな俺に夏流は小さく首を横に振った。



「思わないわ。でも私はそれくらい、朔真以外は有り得ない。私がここにいるのも貴方を利用して朔真を試しているだけ。」



酷い女でしょ?



そう続けた夏流は、何故か出ることのないスマホの画面に再び視線を落とした。

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