第40話

それに苦笑する俺に密人は深刻そうな顔を向ける。



「夏流が、不安定になんだ。朔真のことになると自制が利かねえからな。八つ当たりは勘弁だな。」


「そんな大げさな。」



そう鼻で笑ったのは、つい2週間ほど前。



ーーーーー、



密人に言われ勢いで連れ出したものの、女とデートなんてしたことねえ俺は結局、繁華街の中にある喫茶店に夏流を連れて来ていた。




『嬢っ、お疲れ様ですっ。』


『オッ!お嬢、浮気はいけやせんぜっ。』




「・・・昭子ちゃん(しょうこ)、コーヒー。」



なんて組員たちの声かけに小さく笑みを返していた夏流は、カウンターに座るなり目の前の巨体にそう言い放った。



「はいよー。隣のイケメンは何飲むぅ?」



喫茶【抹茶】名物の昭子



(初めて見たな・・・)



プロレスラーみてえなガタイに青い顎、この世のものとは思えねえ化け物は、何十年にも渡るこの喫茶店の名物だ。



なんでみんな名前が昭子なのかは不明。



しかも全員年齢不詳だった。



そんな昭子の厳ついスマイルにかなり引きつつも、俺もコーヒーを注文した。


「あいよん。一杯目は奢っちゃう♪」


「・・・どうも。」



代わりに"何か"を請求されそうで怖いのは俺だけだろうか。




そんな俺を余所に、昭子はその大きな体躯を折り曲げて厨房へと消えていった。

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