第32話

粛々と行われる会合。



同盟の組長とはいえ、こいつらは粗野で、屈強だ。


そんな奴らが小学校の生徒のように静かに会合を進めている事が、酷く滑稽に写る。



新城奏は、壇上であぐらをかいてただタバコを吸い、新城秋も同じように彼方を見つめているだけ。



会場にはただ田島隼人の声だけが淡々と響いていた。



「こちらで、よろしいでしょうか?」


「・・・・ああ。」



その一言で、会合は終焉を迎える。



そしてその後、



「お前ら・・・・チッ、・・・・、」



機嫌の悪そうな新城奏は、一層機嫌を悪くして渋々口を開く。



「妻が、料理を振舞うそうだ。・・・食うなよ?」


殺気と共に矛盾した言葉を吐く彼に、組長達も苦笑いを隠せない。



『失礼、致します。』



透き通るような、綺麗な声。


その声が襖越しに聞えれば、会場中の組長たちは浮き足立つ。



襖が開き、見えたのは流れるような漆黒の髪。



『妻の、ゆいかでございます。

粗末なもので申し訳ございませんが、手料理をご用意致しました。

本日はお酒もたっぷりと用意しておりますので、存分にお楽しみくださいませ。』



彼女が両手をついて丁重に頭を下げた背後。



俺の瞳は釘付けになった。



鼓動が跳ねるほど、女に魅入ったのは初めてだ。



漆黒を纏った女。


新城夏流は小さく笑みを浮かべて母親の背後に静かに座していた。



親父は夏流に杓をして貰っていたが、側近として来ている俺が酒を注いで貰える筈もなく…、

視線すら合うことは無かった。



夏流を想った分だけ、彼女に会いたいという欲求は増す。



漸くそれを叶えたというのに・・・



「うまくいかねえな。」



俺の立ち入る隙間も無い様に見える2人を見て、ため息をついた。

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