第20話

「私もまだまだって事じゃない?

もっと……、朔真に愛情を注げって事でしょう?」



そう言って艶のある漆黒の瞳は俺へと向けられる。



「・・・・お前さ、昔からだけどアホだよな。」



密人のため息混じりの声も俺の耳には届かない。


漆黒の瞳に魅せられた俺の意識の全ては、夏流に向かう。



流れるように俺の頬へ向かう、夏流の指先。



「ッッ、」



擽ったくて身を捩るも、俺の身体は欲情に染まる。



「……、足りない?」



首を傾げる夏流の瞳は、嬉しそうに細められ、


自然と俺の目は、彼女の口元へ。



「夏流、誘惑すんな。授業中だぞ。」



密人のたしなめる声にも、俺の高く跳ねる心臓は鳴り止まず。



「あら、時と場所を選んで逃がしたら一生後悔すんぞって言ってたのは父さんよ?」



・・・オヤジさんの助言(?)は、ロクなことが無い。



流石に我に返った俺は、密人と視線を合わせて苦笑いを零した。






「先生!私そんなことっ、してませんって!!」




そんな時、飛び込んできた涙声。



「で、でもだな、高梨が・・・」


「朔真くんはっ、別の人に投げられたのを勘違いしただけなんですっ、ウッ、先生酷いぃ〜!」


「えっ、あのっ、木下!?」



木下の涙に騙された先生と教室中の生徒たちは、一気に同情の視線を彼女へと向ける。



「あら、やるわねー。あの子。」



夏流の呑気な声は俺と密人の苦笑を誘う。



「だな。うぜえから卵行くか?」



そんな密人の声かけに時計へと視線をすべらせると、あと5分で授業が終わる時間だった。



「そうね、もう授業どころじゃないしね?」



「ん。でな、席なんだけど。」



密人が口角を上げて手招きをする。



そんな銀髪に首を傾げるも、少し身体を寄せて耳を傾けた。

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