第17話

side 朔真




どうやら俺の誘惑は失敗したらしい。



まっすぐに真剣な瞳を黒板へと向ける俺の女は、授業中は一切俺へ視線を向けない。



『朔真に夢中になっちゃったら、授業どころじゃなくなるじゃない?

だから授業中は見ないわよ?』



そんな事を照れもせずに言い放つ夏流は、宣言どおり俺の方へその漆黒の瞳を向けはしない。



俺はこの時間が一番嫌いだ。



だから存在を忘れられないよう、餓鬼みたいだけど、夏流の髪を時々引っ張る。



そんな時、小さく首が俺の方を向こうと少しだけ動く事に満足する自分に苦笑しか出ない。



カサっ・・・、



夏流の漆黒の髪を見つめていると、どこからか折りたたまれた紙が飛んできた。



首を傾げて紙を開けば、


"その女、密人くんと浮気してるよ?

昨日もグランに入って行ったって!"



不快な内容に周りを見渡せば、隣の木下が薄く笑みを浮かべていた。



「チッ、」



思わず小さく舌打ちが響く。


先生が訝しげな視線を俺に寄越すから、



「先生。この女がなんかゴミ投げてきてウザイんですけど。席移動させてくださーい。」



棒読みで奏でた声は、俺の精一杯の鋭い視線と共に先生へと発信される。



「ヒッ、そ、それはいかんなっ!木下!山田と席を替われ!」


「えっ、そ、私っ、そんなことしてませんっ!」



教卓前の山田が目を見開いて驚く中、焦った木下と先生の言い争いは教室中をザワつかせた。



勿論授業は中断。



ため息を吐いた夏流は俺を視界に入れる。



「もう、なにしてるのよ?」


「・・・。」



俺は無言でさっきのメモを夏流へ手渡した。

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