第16話

彼らがそんな処分で済んだ理由。



それは秋兄に一任された壮士がそう指示したから。



壮士は目を細めて呟いた。


『良い、下僕となりそうでしょう?』



壮士の言う通りだと思う。


彼らは恐らく、罪悪感から弓を深く知ろうとするはず。


彼女の悪いところを探して、自分の行いの罪深さを少しでも軽減しようとする、人の無意識な精神的自己防衛に走る。



きっかけの感情なんて、どうでもいい事だわ。



要は弓を"知る"ということが重要なんだもの。



私だけでなく、雅人や壮士といった人に懐かない人間を堕とした彼女の魅力に魅せられるのは時間の問題。




冬夜が面白くなさそうだけど?


秋兄なんて暗殺するって宣言してたけど?


そういう私も、面白くないけど?



「私のお義姉ちゃんの親友は強烈よ。」



クスリと笑う私に、伸吾の口はしが引くつく。




すると、


「なぁ・・・、」



私の背後から、猫が喉を鳴らす音が聞こえる。



声に誘われるまま、朔真へと視線を滑らせれば、

私の猫の、誘うような瞳に吸い込まれた。



「もぅ、卵行かね?」



猫撫で声って、こういう事を言うのよね。



女たちの不快な猫撫で声なんて足元にも及ばない朔真の攻撃が私の心臓を貫いたところで。



『授業始めるぞー。』



タイミング良く先生が入ってきて、なんとか誘惑に負けずに済んだと、小さく息を吐き出した。



小声で、朔真の耳元で囁く。


『・・・・後で、ね?』


『っっ、ん。』



くすぐったそうに身を捩る朔真は、甘い吐息を吐き出して再び卓上に身を沈めた。



それを忌々しそうに見るツインテールは、鋭い視線を私に送る。



それに目を細めただけの私は、


何事もなかったかの様に黒板へと視線を滑らせた。

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