第12話

ここでも必ず起こる現象は、シンと静まり返る生徒たち。


そして絶対に目を合わせようとはしない。



私と目が合うといきなり組員に殺されるとでも思っているのか・・・、



子供の頃から経験してきたこの現象には、いつまでも慣れない。



もっと子供の頃は、母さんに泣きついていた。


その度に哀しそうな表情を見せる母さんのやるせない気持ちに気付いてあげられなかったから。



次第に表情を無くしていく私を、母さんはキツく抱きしめ、そしてとても穏やかに微笑んだ。



『私は謝らない。奏の職業は胸を張って言えるものではない。

けれど、私が愛している人の事だもの。私はそれに一生を捧げたわ。

私達の娘なら、強く、生きなさい。

生まれや境遇を見て付き合いを選ぶような人間たちに負けてはだめ。』


強い、母の眼は、私の憧れ。



『母さんは一度負けちゃった、けどね?』



そんな母さんを父さんが救いあげたから、今私達兄弟は存在する。



だから私は、胸は痛んでも俯かない。



前を見据えて、最愛の男の手を握って足を踏み出す。



「・・・・・はよ。」



「あら密人、朝から来てるなんて珍しいわね?」



教室の左前。



そこに陣取っている私達の席に私が座ると、息を吹き返したように教室の喧騒は舞い戻る。



ガヤガヤと生徒たちの楽しそうな会話を横目に、私は席の先頭で窓の外を見ていた密人に声をかけられた。



「はよー、なっちゃん。」


「おはよう、伸吾(しんご)」



相変わらず可愛い伸吾が、結った髪を揺らしながらいちごミルクを吸う。



そんな彼は密人の隣。



私は密人の後ろの自分の席に腰掛け、更にその後ろの自分の席にカバンを置いた朔真を見つめた。



隣って、案外遠いじゃない?


だから朔真は常に私の後ろに座る。

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