第9話

「佐武、今日は午前中だけ授業受けてあとは卵にいるわ。」



「は。でしたらいつもの時間に図書室へお迎えにあがります。」



「ん。」



それだけを話して朔真の方は見ずに下駄箱へと歩みを進める。



背後ではーーー、



「朔真くんっ、今日のお昼一緒に食べない?

杏樹(あんじゅ)、お弁当作ってきたのー。」


「・・・。」



高い女の声、それに答えていない朔真がどんな表情をしているのかは想像つかないけれど・・・、




不快。



木下杏樹(きのしたあんじゅ)、転校生。


明るめの茶髪のツインテールは彼女のトレードマーク。


大きくタレ目気味の目、156しかない身長はコンプレックスなのだと、全然思っていなさそうに語っていたのは記憶に新しい。



しかもボイン。



容姿が圧巻のアイドル系で、校内の人気もまずまず。



振り返りは、しないわ。



だって次、この女に触れさせたら‥‥、



『別れて、あげる。』



そう言っておいたから。




私の吐いた言葉が、重いのか、軽いのか‥‥



きちんと見極めたのなら、彼は、



「夏流、待てよ。」



直ぐに私の手を掴むはず。



ゆるりと、口角が上がる。



私の肩を抱き寄せた朔真の唇が、私の耳元で音を奏でる。



「卵行く前に売店寄ろうぜ。」


「ん、そうね。」



そんな会話をしながら、教室を目指す私達の背後で取り残された彼女は、



嫉妬の蒼い炎を吐き出す。



「ッッ、気に入らないっ。」



さて、彼女はどう出るか?



早くおいで?返り討ちにしてあげる。



前を見つめて微笑んだ。

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