第62話

いろはが告白されだしたのは、入学して2週間くらい経ってからだった。




そのたびに、僕は、冷静を装って笑顔を張り付ける。



多分それに、いろははイラついてた。


いつもそんな僕を見て眉間に皺を寄せていたから。




やっと顔を上げたいろはは、まだ眉間に皺を寄せてて。


泣いているんじゃないかと焦っていた僕は内心苦笑した。



「作り笑い。」


口を尖らせたいろはは、それだけを言って、プイとそっぽを向いてしまう。



それと同時に僕の胸を押して身体を離してしまったいろはは、中庭を目指して歩き出してしまった。



さっきの言葉に、やっぱりか、と思って。



苦笑いで後を追う。



「ごめん。」


「・・・。」



「もうしないから。」


「・・・。」



何を言っても、いろはは歩くのをやめてくれなくて。


僕の中で、焦りが生まれる。



「いろは?」



腕を掴んだ僕にいろはは、前を向いたまま、吐き捨てた。



「私を、”その他大勢”にしないで。」


「・・・。」



僕が全てをさらけ出せる人間は、いろはしかいない。



だからか時折、僕が取り繕えば、いろははもの凄く怒る。

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