第61話

いろはに手を引かれる僕は、チラリと男へ視線を移した。



泣きそうな、悔しそうなその表情は、僕に優越感を与えてくれる。



僕も結構、いい性格してる。




思わず笑ってしまえば、いろはが不思議そうに僕を見上げてきた。



「・・・大好きだって?」



僕の醜い感情は隠して、誤魔化す為に笑顔を張り付けてそう言えば、



「本当のことを言っただけだよ。」


真剣な表情のいろはが。



それに息を呑む僕に、いろはは眉間に皺を寄せる。




「郁のその表情、好きじゃない。」



「っっ、」




僕は一体、どんな表情をしているのか。



「その顔で笑わないで。」



少しだけ震えたその声は、小さかったのに。



昼休みで騒がしい、廊下のど真ん中でもはっきりと聞こえた。




心臓を掴まれたような苦しさが襲ってきて、それを止めてもらいたくていろはを腕に包んだ。



「ごめん。」



答えないいろはは、小さく首を横に振る。


僕を見ないで俯いて胸に包まれているいろはに僕を見て欲しくて。



腰に回した腕に力を込めた。



それでも顔を上げないいろはに胸が更に苦しくなる。



はっきりと、自分の顔が苦しさで歪んだのが分かる。

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