第60話

自惚れとは違うけど、分かっててそう聞いているいろはは結構意地が悪い。


僕を傷つけたことに少し、カチンときているのかもしれない。




「え?ま、まぁ、あの……」



面と向かっては言えないのか、男のくせに女みたいに顔を真っ赤にして目を泳がせるこいつは、最早僕を挑発することすらできなくなった。



その余裕を無くしているのは、いろは。



「クラスのなにかとかなら、昼休みが終わって聞くよ?」



そう言って笑顔を向けたいろはに、男が魅入られるからだ。



「あ、ああ。うん。」



最早告白したい、なんて言えない状況のような気がするけど、何故かこの男は、引くに引けないらしい。



「・・・好きなんだ。」



ボソッと吐かれた言葉は、男の気持ち。


上げられた視線の強さは、決心の表れだ。




いろはは一瞬、小さく頷いて。


迷っているようにも、見える。


だけどこれは、言葉を選んでいるんだ。いろはの考える時のクセだった。



すぐさま上げられた視線は、凍りつくように冷たくて。



男も僕も、息を呑む。




「ごめんね。私は郁が、大好きなの。」


「っっ、」



なのに吐かれたセリフは、反則的に甘くて。



思わず抱きしめたくなってしまう。




「・・・そっか。ごめん。」


「いいえ。」



自嘲の笑みを浮かべた男にそれだけを言ったいろはは、直ぐに歩き出してしまった。

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