第59話

side 郁




いろはが入学して、2か月が経った。




そろそろ1年生もこの学校に慣れてきた頃、僕にとっては、ゆゆしき事態が発生していた。



「長谷川さんっ、」



僕といろはは、昼休みを一緒に過ごしている。


僕がいろはの教室に迎えに行って、一緒に中庭に行く。


そこには、大きな桜の木があって、もう花が散ってしまっているそこに、シートを引いて、一緒に弁当を食べるんだ。



そこへ移動している最中、廊下で。


たまに、だけど。


こうやって、”男”に呼び止められる。



「なに?」


普通にそう返すいろはは、僕が内心、イラついているのを知っている。



だけど、だからといって、無視なんてしない。


僕が気にするのを楽しんでいるのかもしれない。



「あの、ちょっと、いい?」



僕に向ける挑戦的な目、染まる頬、そしてこの口調。



明らかに告るつもりだ。



僕の胸が一つ、軋んだ音を立てる。



そんな時、いろはは僕の手を、強く握る。




「あんまり良くないんだけど。なにか、用事?」



大丈夫だと言うかのように、僕を”安心”させる彼女は、


無表情で目の前の男を”攻撃”する。

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