第55話

あっさりと呼ばれたその名前。



当たり前のように呼んでいる彼女が蓮池君の通り道を塞いでいる女の子たちを見て不機嫌になった。



女の子と話しているだけで、嫉妬をしてしまう彼女に、蓮池君は嬉しそうに近付く。


自然と繋がれた手。


呆れたように蓮池君を見た彼女。



確定だった。



彼女は、蓮池君の、彼女だ。




下唇を噛んで、踵を返す。



少しずつ、進む歩みはやがて、早足に。


それはすぐさま走りに変わって、女バスの部室を目指した。



息を切らしながら入った部室の中は、さっきまでいた私たちが残した消臭剤の香りがして、汗の匂いも混じっている。



出ていったばかりのせいか、室内は酷く湿気が多くて、息苦しい。



「・・・ぅ、」



我慢していたのに。走りながら流れていた涙は、



「うう、ぅぅ~~、」



止めどなく流れだす。



「うう、うあああああ~~!!」



叫んでも叫んでも、涙は流れ続けるばかり。



息が苦しい。胸が痛い。



イタイ!



誰にも聞こえないこの部屋に、私の泣き声だけが木霊した。

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