第54話

「・・・でさー。」


「マジでぇ?」



校舎側から歩いてくる女の子たちに気付いて漸く、私の意識は急浮上した。


それでも向けている視線の先には、彼女と楽しそうになにか話している蓮池君。




「っっ、」



女の子たちが私とすれ違った途端、何かスイッチが入ったように足が動いた。



早く。早く。・・・早く!



なぜか私は、早く蓮池君に挨拶しなくちゃ、と思った。



私の存在を、忘れられないように。



今日も口角を上げて、返事を返してくれる。


そう思った。



だけど・・・



息をきらした私が靴箱に着いた時、周りを見渡してみても、靴箱の入り口には蓮池君と彼女の姿が見えない。


きっと学年が違うから、今別々に靴を履き替えてるんだろう。


チャンスだと思った。



2年の靴箱の所まで早足で歩いて行って、角を曲がろうとする。


その時、私の耳にはとても鮮明に、その言葉が聞こえたんだ。




「彼女だけど。」



「っっ、」




足が、動かない。


微動だにしない自分の足。


それだけじゃない。身体全体が、動かなかった。



そんな私に追い打ちをかけるように、彼女の可愛い、ソプラノの声が響く。




「郁?」

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