第53話

入学式の次の日。


昨日はいつもの通り、私に向けて少しだけ口角を上げていた彼は。




隣の可愛い女の子に、見たことも無いような優しい笑顔を向けていた。






朝練が終わって、少し熱かった。だから校舎に直接入るみんなと別れて1人、少し遠回りして外廊下を歩いて教室を目指した。



蓮池君にこれから挨拶するのに、汗まみれなのは嫌だから。



外廊下は運動場沿いに平行してて、校門から校舎へと続く並木道もよく見える。



少し太陽の光が強まってきた時間帯、多くの生徒たちが怠そうに靴箱を目指して歩いてくるのが見えた。



それを目を細めて見ながら額の汗をタオルで拭った私は、たった今校門を通ったカップルを見て目を見開いた。



「っっ、うそっ、」



少し遠いけど。もう校舎に近付いていた私からは誰かなんて分かり過ぎるほど分かってる。



「蓮池くん、」



ネクタイをした隣の可愛い女の子を愛おしそうに見ている人は、私の想い人。



震える唇をタオルで覆っている私と同様、蓮池君たちを茫然と見ている生徒たちの間を、彼らは気にせず進む。




彼女の胸元を縛っているのは、私がとても、欲しかった物。



蓮池君の、ネクタイ。

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