第50話

「チッ、」



舌打ちした郁はもう一睨みして小さく頷いた。



「メールっつうよりメッセージアプリだけどね。」



その言葉に視線を移せば、いつもは隣でダチと食べているにこがいない。



きっと今日はショックでそれどころじゃないんだろう。



好きな奴がある日突然恋人と歩いてたら、俺だったら立ち直れねえ。




始業式での郁のあの表情は、相手がいろはちゃんだからだったんだ。



それを俺が別の子とやりとりしていたにこを相手だと勘違いしただけ。



「可哀想だよな。」


「ん?」



俺が呟いた言葉が聞こえなかったのか、聞き返してきた郁に曖昧に笑った。



誰かと誰かが好き合ったとして、そのどちらかが好きな別の誰かは当たり前だけど失恋する。


苦しくて、悲しいことだが、それは仕方のないことだ。



郁がもう1人いれば、とか、思うけど。


郁はきっと、もう1人いてもいろはちゃんに恋するんだと思う。



こいつとの付き合いはまだ1年だけど、こいつがそういう奴だって確信はある。



「それでも巨乳ちゃんのことは許せねえけどな。」


「それ、僕のせいじゃないよね?」




小さくため息を吐いた郁を涙目で睨んだ。

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