第48話
俺の手から逃れるように、眉間に皺を寄せっぱなしの郁は素早く残りの1個を頬張る。
そんなに、急がなくてもよくね?
苦笑いの俺を余所に少し苦しそうな郁は、茶で口の中のものをゴクリと飲みこんだ。
「お前な、たかがおかずだろうが。」
俺のため息に、郁が心外だとばかりに眉を顰めた。
「いろはの作ったおかずだ。人にやるわけがない。」
「・・・。」
「「・・・。」」
「「・・・。」」
「「・・・。」」
「・・・マジで?」
長い長い沈黙の後、俺の質問に頷いた郁。
「いつから?」
「初めから。」
高校生の男ともなると、母親の弁当っつうのはちょっと恥ずかしい。
それでも持ってきてしまうのは、早弁と言う名の使命と、食欲に負けてしまうという諸事情にある。
俺だって正直、コンビニの弁当よりババアの飯の方がいい。
郁のおかずは母親の世代らしく茶色系のもので彩られ、それは俺たちの入学当時から変わらない。
決して今年入学したようなキャピキャピの女子高生が作るような弁当には見えなかった。
「初め、というのは……今日から?」
どうしても信じられない俺は、空の弁当箱を見つめてそう言う。
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