第42話

あの子と郁は会ったことはないから。



そしてあの子はそんなこと気にするような人間じゃないから。



『私の呼びたいように呼んで何が悪いわけ?』



なんて言いそう。



衝突するのを知っていて、郁と会わせるわけがない。


だけどなんとなく。なんとなくだけど……



あの子は分からないけど、郁はあの子が誰なのかを知っている気がする。



時折郁は、とても怖い雰囲気の時がある。


それは私がそう感じるだけなんだけど。


吸い込まれそうな郁の独占欲で、私はいつか溺れてしまうかもしれない。



だけどその時は。



水面からあがって、郁をひっぱたく。



私たち2人はこれからなんだから。


私たちが過ごしたのは10年くらいなもの。



もったいない。2人共100歳まで生きれば、あと80年は一緒にいられる。



途中で死んじゃったら、もったいない。




「長谷川さん?」



少し、トリップしていたらしい。


気が付けば、生徒たちはみんな廊下に出ていて。


私たちが最後だった。



渡辺さんはそんな私ににっこりと笑いかけて。



「亜里沙って呼んでね?行こう?」



そう言って私の手を引いた。

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