第41話

「あの、長谷川さんだよね?」


「え?」



背後から、そんな声が聞こえて。



振り返ってみれば、黒髪をポニーテールにした、活発そうな子が満面の笑みで立っていた。



「そうだけど、」



誰?そう続けるのは失礼な気がして、途中で黙った。


だってさっき、自己紹介を全員したばかりだし。


聞いていないとも言えない。



そんな私の気まずさを察したのか、目の前の女の子は、困ったように眉を下げて口を開いた。



「私、渡辺亜里沙(わたなべありさ)っていうの!ちょっと遠い中学から来たもんだから、知り合いがいなくて。良かったら、仲良くしてくれる?」


「はぁ、よろしく。」


「ふふ、面白い子だね、いろはって呼んでもいい?」



どこに面白い要素があったのかは不思議だけど、これだけは言える。



「ごめんね、下の名前、嫌いなんだ。名字で呼んでくれれば助かるな。」


「そ、そうなんだ?分かった。」



困った様子だけでここで嫌な顔をしないところは、この子の良さなんだろう。



私の名前を呼ぶ人は2人しかいない。



郁と、あの子。



その理由は単純明快だ。



郁が自分以外が私を名前で呼ぶのを極端に嫌がるから。

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