第32話

そんな中で、クラスの女がいつものように話しかけてきた。



「あのっ、蓮池くん?えと、」



何か言いたそうな女に「はよ。」とだけ言っておく。



正直言っていろはの存在を言いふらす気はない。


僕は今日、待ちに待った彼女との登校を実現しただけなんだから。



まだ何か言いたそうな女に気付かないふりをして、教室のドアを開けた。



途端。



「い~く~!!」



デジャヴュを、感じた。



迫りくる坊主頭を目を細めて見つめていると、伊吹は僕の胸倉を勢いよく掴んだ。



「おはよ。」


「おはようじゃねえ!」



流石野球部。朝からスゲー元気。


だからってあまり頭を振り回されると、気分が悪くなる。



「やめろ。」


やんわりと拘束を外した僕は、自分の席に腰を下ろす。




窓の外の景色は、いろはのいない1年間とはうって変わって、輝いて見えるんだから不思議だ。



いや、僕が現金なのかも。



「あれはやりすぎだろ。」




そんな僕に、伊吹の真剣な声が落ちる。


視線を上げれば、険しい表情の伊吹が僕を見下ろしていた。



「なにが?」



首を傾げる僕に、伊吹はため息を吐いて前の自分の席に腰を下ろした。

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