第28話
だけどそれ以上に、郁の視線が彼女たちに向いていることが気に食わなかった。
「・・・・郁?」
なんでもない風を装って、彼女たちの背後から郁を呼ぶ。
顔を上げた郁の不機嫌顔が、私を捉えるなり緩んで。それだけで、優越感を感じてしまう。
「遅刻しちゃうよ?」
キツク睨んでくる彼女たち越しに笑顔を浮かべる私はやっぱり、心が薄汚れている。
「退いてくれる?」
「っっ、ごめんなさい。」
郁が冷たくそう言ったことで、驚いたように振り返った先頭の彼女の声が震えていることに気付いて。
彼女の気持ちを確信した。
手に爪がめり込む程。不愉快で。
この場に息苦しさを感じる。
少し速足で私の所へ来た郁は、そんな私に気が付いて顔を綻ばせた。
変わってるんだから。
郁が私の爪痕を愛おしそうに撫でて、ご機嫌で手を繋ぎ直すのを見ていると、私の怒りは、呆れに変わる。
「いろは、ごめんな。」
「何が?」
突然謝ってきた郁を見上げれば、言葉とは裏腹に、嬉しそうな顔をしている。
「もっと妬いてよ。」
「・・・。」
この言葉についての謝罪なのか。それとも、これからの学校生活についての謝罪なのか。分からない私は答えることができなかった。
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