第17話

だから。


「っっ、郁?」



そっと、いろはの頬にキスを落とした。


それだけで真っ赤になる彼女の頬。自分の顔も、熱を持ったのを感じる。


少しぷっくりとしたそこは、子供っぽく見えるって嫌がっていた場所なんだ。



僕が握りしめているこの手も、子供みたいで嫌だと言っていた。


だけど。


爪の手入れをするのが大好きで。


ぴかぴかにしちゃって中学で怒られないように指を丸めていたっけ。


その指は、高校生になったことでもう、堂々と見せる事ができる。



自分の頬を抑えるいろはのぴかぴかの爪は、柑橘系の香りがする。



『見て!磨きセットの艶出し、郁の好きなオレンジの香り!』



そう言って嬉しそうにしていたから、僕がプレゼントしたんだ。



入学式で使う。そう約束をして。



爪先から薫るオレンジの香りは、その約束が果たされたことを語っている。



「入学おめでとう、いろは。」



僕の言葉に目を見開いた君は、



「ありがとう。郁。」



頬を染めて、潤んだ目を僕に向けた。



その笑顔は、僕を魅了する。


心臓が大きく高鳴って、胸が苦しくなるんだ。



そして。


「っっ、」


「本当に、おめでとう。」



抱きしめたくなっちゃうんだ。


いろはを胸に包んで耳元で囁けば、小さく頷いた彼女は俺の脇の辺りの服を掴んだ。

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