第14話

side 郁




「い~く~!!」




トレーニング室から校庭を突っ切って走ってくる伊吹は、自慢の俊足でドンドンと迫ってくる。



・・・あの黒い点は、鞄じゃないのか?



わざわざ鞄を投げ出してまで何に急いでいるんだか。



僕が呆れのため息を吐いたところで、親父さんが口を開いた。



「じゃあ俺、行くから。」


「うん。」



手を振る彼女に、親父さんは軽く手を上げて背を向ける。



「なんで来たんだ?」



親父さんの背中を見ながら思わず呟いた。



「うん、ちょっとね。」



親父さんの背中を見つめるその眼には、なんの感情も無くて。



反して振り返って僕を見るこいつの目には温かさが浮かんでいる。


「郁!!」



彼女の手に指を絡めたところで、伊吹の大声が辺りに響き渡る。



僕の手を握り返す彼女の指が、その声に驚いたのか一瞬強張った。




「何。」



肩で息をしている伊吹を見れば、バカの目は大きく見開かれ、僕たちの繋がれた手に集中している。



なんとなく、居心地が悪い。



彼女を隠すように手を後ろに回した。



隠れた手と彼女の顔を交互に見ている坊主を睨んでいると、一瞬変な擬音を吐いた伊吹は恐る恐る口を開いた。

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