第13話
「は?」
思わず。そんな声が出ていた。
ポケットから出た郁の手は、ゆっくりと彼女の頬を滑り、2人はうっとりと見つめ合う。
頬からそのまま。郁の手は彼女の首裏へと滑り、彼女の首についていたリボンが緩く傾いた。
すぐに引き下げられたリボン。
郁はそこに、いつの間にか外していた自分のネクタイを巻いた。
不思議そうに、首を傾げてそれを見ているだけの彼女。
あっという間に結び終わったネクタイを少しだけつまみ上げて、郁を見上げた。
2人の表情は遠すぎて見えない。
なのに。2人の間に流れる雰囲気は・・・
「嘘だろ。」
呟いた時には、走り出していた。
100M12秒ジャストのこの俊足を見よ!
「い~く~!!!」
重い鞄をその辺に投げて、振り返った郁を目指して全力疾走した。
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