第3話

「蓮池くん、はよ~!」


「・・・はよ。」



「おはよ~!」


「はよ。」




彼が教室に入った瞬間、女子たちはこぞって挨拶を繰り返す。


そんな彼女たちに丁寧に返事を返すも、彼の目はただ歩く先に向いている。



「郁!置いて行くなって!」


「煩い、伊吹(いぶき)」



ピシャリとそう窘められ、苦笑いを零した男。


そんな彼も、この高校の人気に”貢献”した1人だった。



福田 伊吹(ふくだいぶき)



彼が所属しているのは、この学校の野球部。


そのせいか、彼の染められたことの無い黒髪は、最低限まで刈られている。


彼のプライドなのか。少しだけ立てられている髪を見れば、坊主から自分を死守しているようだ。



彼のポジションはピッチャー。所謂花形だった。



入学してすぐ、彼はその体格を生かした強肩で、先輩投手を飛び越えエースに昇格。



女子生徒たちの人気の的となった。



そんな彼は180を超える長身で、ウエイトトレーニングのせいか体格もガッチリとしている。



たれ目がちのその目は相手をほっこりとした気持ちにさせ、笑った時に除く八重歯は主に上級生をキュンとさせた。



あまり感情の起伏が激しくない、冷たい印象の郁と比べ、彼は喜怒哀楽を激しく出すタイプ。

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