第55話

side 光里




頼の目が据わって、灰島を見つめ返すその目には温かさがなくなる。



「っっ、」


それに怯んだ灰島が咄嗟に手を離すけど、それでも彼女を見つめ続ける頼の眼光は、鋭利な鋭さが見えた。



「邪魔をするな、と言ったはずですが。」


「っっ、」



「ははっ、コエー。」



流の馬鹿が隣ではしゃいでるけど、これって結構怒ってるんだよね。


頼は怒ると滅茶苦茶怖い。普段温厚な分余計にそれを感じるというのもあるけど、こんなおとぼけでも白坂頼だ。


”その時”には容赦がないのが普通。


お嬢様とは言っても、温室の中でぬくぬく育つ人もいれば、頼のように家が大きすぎるせいでもの凄く厳しい世界で育ってきた人もいる。



将来背負う家の重さを感じながら、それを支える術を学び、そして自覚する。


普通に考えれば、どこか壊れていないとやっていけない世界だ。


頼はこれまで、完璧なまでに白坂頼を演じてきた。


傍で見ていた私でさえそういう人間なのだと思っていたほど。



だけどやっぱり、頼も人間で。



黒蜜という”弱さ”がある。



黒蜜にひたすら恋情を向ける頼のこの気持ちの大きさは、白坂頼には不要なものだ。

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