第54話

「く、黒蜜君?」


灰島さんが、意地悪顔の黒蜜君越しに見えますが、なんせ頬の痛みでそれどころじゃありません。



「は、にゃ、は、」


頬をぐいーと引っ張られているせいか、全然話せそうになく、そんな私を見て黒蜜君は楽しそうに笑っています。



痛い、ですが。黒蜜君が私に笑いかけてくれているだけで、私の頬が緩んでいきます。


私の変な緊張が解けたせいでしょうか。黒蜜君の指の力が滑ってしまうのか緩くなっていきます。


「つねられてニヤニヤするのって頼くらいだね。」


そう言って笑う黒蜜君は、「行くよ。」と続けて歩いて行ってしまいます。



「あっ、待ってください!」


「ちょっと。」



黒蜜君を追いかけようと走り出したのに、そんな私の後ろ手を引っ張って止めた人物は、その鋭い視線をまっすぐに私に向けて来ます。



「話があるんだけど。」


「はぁ、」



どうでもいいですけど、私は今、黒蜜君の背中を追うので忙しいんです。灰島さんのお誘いに頷くわけにはいきません。



「申し訳ないですが、他の空き時間でお願いします。」


「はぁ?」



それでも私の手を離そうとしない彼女に、一瞬、黒蜜君から視線を外した私の目が細められます。

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