第45話

ピタリと、止まった涙。


至近距離で見つめる大きな真っ黒い目は、涙の膜を張って、キラキラと輝いている。



これだ。



「大丈夫?」


「っっ、は、ぁ、」



俺が、指で頬を撫でただけで反応する体。



「なんで、泣いてたの?」


「そ、それは……、」


入学式でも前をまっすぐに向いて話していたこの唇が、俺に反応して口ごもる。



「ん?」


「っっ、悲しかったんですけど、嬉しかっ……たんです。」



俺なんかに、白坂頼の全てが乱れ、そしてひれ伏すんだ。



これだ。


目を伏せる彼女に見えないところで、俺の顔が辛く歪む。


俺が今、この女を手に入れればきっと、


白坂頼は、悲しい思いをするだろう。



確かに俺の中に存在する支配欲は彼女を振り回し、従順な彼女を前に俺はきっと、自分の烏滸がましさに気付かずに驕る。



俺は、気付いていた。自分の中のこの、異常な願望に。



俺に振り回され続け彼女が疲弊するだけなら。



俺は彼女を振り続けなくちゃいけない。



そしてなにより、俺という”普通”な奴はいずれ、”白坂頼”とは一緒に歩けなくなるから。



こんなに重い恋愛をさせるくらいなら俺は、頼を振るべきだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る